「いま求められる“最短の変化”と教育」 学研教育総合研究所 主任研究員 大塚恵理子

1.研究員の立場から見えるもの
探究学習、課題解決型学習、文理融合、STEAM教育、英語4技能試験、情報活用能力、EdTech、ビッグデータ、AI、ICT、学びのポートフォリオ、SDGs、プログラミング…等、教育を取り巻くキーワードは大きく変化している。このような動向の要因として挙げられるのは、少子高齢化に伴う労働人口の減少、世界規模での技術革新に伴う人間の役割の変化、そして社会的・環境的課題の拡大等であろう。いずれの現象も、このままでは国も個人も立ち行かなくなるというメッセージを孕んでおり、私たちは遠回りが許されない“最短の変化”を求められていると言えるのかもしれない。

私はこれまで、国際バカロレア(以下IB)の「知の理論」(以下TOK)に関する研究を行ってきた。現職ではIBに限らず様々な教育やその動向に触れる機会がある。今回はそのような立場から、いま求められている“最短の変化”に関するリスクと可能性について触れてみたい。

“最短の変化”と表現したのは、今回の“変化”には制限時間があるからである。例えば、下記が挙げられる。

・日本では、2015年に65歳以上の者1人に対して15~64歳の者が2.3人であったのに対し、2065年には65歳以上の者1人に対して15~64歳の者が1.3人になる (内閣府2018)

・日本の労働者の49%の仕事が、10~20年以内に自動化される可能性が高い
(野村総合研究所2015)

・2015年のパリ協定で今世紀中の気温上昇を2℃未満に抑えることが目標とされたが、このままいけば上限とされる温室効果ガス排出量を30年程度で超える (環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁2018)

差し迫る課題を前に、未来を巻き込んだ本質的な問題解決策として教育は欠かせないものである。学研も、「戦後の復興は教育をおいてほかにない」という創業者の信念のもとに誕生した。今も昔も、人が学ぶことで生み出される価値には無限の可能性があり、その成果は歴史を振り返れば明白である。

2.“最短の変化”を急ぎすぎることのリスク
 “最短の変化”を急ぎすぎることはリスクを孕むと考える。それは、教育の成果を早く求めることで、学習者が学びの実感を持たずに思考停止に陥る可能性が高くなることである。知識があっても、それが学習者自身の文脈に位置付かなければ、知識が実際に使えるものとして概念化するのは難しい。時間をかけてでも、学習者が目の前の学習を自分の中に意味付け、考察し、概念化するステップが必要なのである。そしてこれは、学び方を身に付けているかどうかに大きく依存する。昨今の教育改革の議論の際、学習者の主体性に重きを置いているものの、学び方を学ぶ方法について明確に示されていないことがある。この点にこそ、機会の差につながる可能性があるのではないだろうか。学び方を学ぶ機会が保証されることは、学習者が学びを最大現に有効化する手段として欠かせないものである。
IBの中核となる教科であるTOKは、まさにこの点に触れる。この教科が目指すのは、自分や他者との対話を通じて、既に自分の中に構築されている知識の集合体や信念がどのように成り立っているのかを自覚するよう促すことである。このようにTOKの実践のノウハウは、ここで言うリスクの回避法を考える際の参考になるであろう。

3.“最短の変化”の可能性
 では、“最短の変化”の可能性とは何であろうか。それは、社会課題の解決が「大人だけの仕事」ではなくなるということである。子どもも高齢者も含めて、自分が学びを通して発見した諸課題に対して行動を起こすことが大きな価値を持ち始めている。世紀の大発見やイノベーションを起こすのに事実上の年齢制限がなくなりつつあり、社会課題の解決に向けてより早期の段階で動き出せるようになる。こうした行動を起こせる人材こそが自立した学習者であり、学習を続けることがキャリアの要となる時代において、本人が身の回りや社会課題に興味関心を持ち続けることが大きな意味を持つようになる。
そのためには、なるべく早い時期に自分の興味関心を追求し、その成果を周囲に認められる経験を持つことが重要であろう。学研は学習教材『○年の科学と学習』をはじめ、70年以上にわたり、教育に寄与するあらゆる商品の開発・供給に取り組んできた。子どもの好奇心を刺激し、楽しみながら学べるコンテンツとして、『学研の図鑑LIVE (http://zukan.gakken.jp/series/)』や『学研まんが新ひみつシリーズ(https://hon.gakken.jp/child/study/secret/)』、そして『学研の幼児ワーク(https://www.gakken.jp/youjiw/)』等、今も多くの商品を提供している。子どもが身の回りに興味関心の種を見つけ、それを大切に育てていくことを支える環境づくりは、今後ますます重要になるのではないだろうか。

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 内閣府(2018)「第1節 高齢化の状況」『平成30年版高齢社会白書(概要版)』,
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/gaiyou/pdf/1s1s.pdf , 参照p2
 野村総合研究所(2015)「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」,
https://www.nri.com/~/media/PDF/jp/news/2015/151202_1.pdf
環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁(2018)『気候変動の観測・予測及び影響評価総合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~』,
http://www.env.go.jp/earth/tekiou/report2018_full.pdf  ,参照p59